Posted by 小澤 未生 - シニアマーケティングマネージャー

スマートフォンの普及による生活者の変化


日本人の 50% 以上がスマートフォンを手にするようになった現在、生活者の生活環境が大きく変わってきている。我々マーケターがこの変化をどのようにうけとめ、どのような戦略をとるべきかについて、これから 4 回連続で記事をお届けし、考えてみたい。

第 1 回目は導入編として、そもそも「Micro-Moments」とは何か、そしてそれを活かすための 3 つのステップについて紹介したい。

例えば、ドライヤーが故障し、買い替えなくてはならない場合、生活者はどうするか?昔は電気店に足を運んでドライヤーを買っていたが、テクノロジーが発展した現在では、「新しいドライヤーを買いたい」という思いを実現する手段が多数存在する。

たとえば、パソコンからの購入はもはや当たり前になっており、さらには、スマートフォンだけで検索、比較して購入に至ることも多くなっている。事実、日本での全オンライン ショッピングのうち既に 49% がスマートフォン経由だというデータも存在する *1。また、スマートフォンで検索した後、パソコンで購入するケースもあれば、パソコンやスマートフォンで調べた後に、最終的には実店舗で購入するケースもあり得る。

このように、スマートフォンの普及によって、生活者が「何かをしたい」という意図を実現する手段が増えている。


マーケターにとっての Micro-Moments


こうした変化に伴い、マーケターが生活者の「意図」に触れる瞬間も増えている。Google では、このような瞬間を、「Micro-Moments」と呼んでいる。Micro-Moments とは、「何かをしたい」という意図が生じたとき、すぐに目の前にあるデバイスを使って調べる・買うといった行動を起こす瞬間を意味する。そしてこの瞬間は、生活者が何かを決断したり、ブランドに対する好みを形成する大切な瞬間でもある。

Micro-Moments が格段に増えた現在、マーケターには生活者の「意図」を理解し、活用するチャンスも増えた。では、Micro-Moments を活かしたマーケティングに必要なことは何であろうか?

1 つ目は、ブランドにとっての大切な Micro-Moments を見極め逃さないこと。2 つ目は、Micro-Moments における生活者の「意図」を汲んだうえで、「最適な情報」を「最適なタイミング」で届けること。そして 3 つ目は、Micro-Moments を活かす施策の効果測定を行うことである。この 3 点は、たとえマーケティング目的が何であろうとも、普遍的である。

ここからは、購買ファネル上の認知、検討、コンバージョン、リレーションシップ強化というそれぞれの目的に沿って、上記 3 ステップを実践するための具体的な方法を見ていこう。


1. Micro-Moments を活かして認知を獲得し検討を促す


ブランド コンテンツや広告を見たあとの行動をスマートフォンとテレビで比較した調査で、興味深い結果がでている。企業のウェブサイトへの訪問経験、購入、クチコミ、好意度形成、動画の共有などにおいて、スマートフォンがテレビを上回っており、特に「共有」については実にテレビの約 4 倍という結果が得られた *2。これは、極めてパーソナルなデバイスであるスマートフォンが、ブランド メッセージを伝え、個人の行動を促す可能性が高いことを示している。

このような結果を得るには、単にスマートフォン対策をとりさえすれば良いわけではない。大きく 3 つの施策が必要である。

  1. まずは日常生活の中で膨大に発生している Micro-Moments を捉えるため、幅広いリーチを獲得する。
  2. Micro-Moments を的確に捉えるため、生活者のコンテクストを正しく把握する。
    具体的には、スマートフォンが可能にするオーディエンス、コンテンツ、ローケーション、そしてリマーケティングなどの豊富なターゲティング機能の活用により、幅広く個々の生活者の Micro-Moments を掴むことが重要である。
  3. ブランド メッセージのインパクトを確保する。これにはクリエイティブもスマートフォン環境に合わせることが効果的である。

このような施策の効果を見極めるには、広告想起率やブランド認知度の測定、検索上昇率の測定が効果的である。


2. Micro-Moments を活かしてコンバージョンを増やす


日々検索される語句のうち、なんと 15% は今までに検索されたことのない新しい語句であり、Micro-Moments も日々変化している *3。この変化を柔軟に捉えてコンバージョンを導くためには、従来のキーワードによるターゲティングだけでは限界がある。

そこで、自社のウェブサイトに関連する検索語句に対して、自動でターゲティングし広告を配信するなど、変化に応じた最適化が大切になってくる。その際はターゲティングだけでなく、広告や入札単価においても、自動化を活用し継続的にパフォーマンス改善を図ることが効果的である。

また、95% のサイト訪問者は初回訪問時にコンバージョンしないまま離脱し*4、49% のサイト訪問者はコンバージョンするまでに 2−4 回再訪問するというデータがある *5。サイトの訪問者をコンバージョンまで落とし込めるかは、ユーザー エクスペリエンスにかかっている。Google ではモバイル サイトのユーザー エクスペリエンスを高めるために、モバイルサイト作成における 25 の設計指針を提案している。ぜひ活用してほしい。

こうした施策の効果はラスト クリックだけでは測れない。オフラインとオンラインをまたいだコンバージョンや、パソコンとスマートフォンなどのデバイスをまたいだコンバージョンなど、購買ファネルの上流の動きを考慮に入れた見極めが重要である。


3. Micro-Moments を活かしてリレーションシップを強化する


生活者の Micro-Moments を継続的に捉えリレーションシップを強化する上で、アプリは欠かすことができない領域である。生活者は 1 日に平均 200 回スマートフォンを使い、利用時間の 86% はアプリ上のものだ *6。モバイル サイトにくらべて、アプリは豊富なユーザー インターフェイスやユーザー エクスペリエンスによって、高い反応率を実現できる。つまりモバイル サイトに加えてアプリを持つことで、生活者の Micro-Moments をより確実に捉え、継続的なリレーション構築、高い LTV (顧客生涯価値)が実現できる。

リレーションシップを強化できるアプリの特徴は主に 3 つある。
  1. まずは、シンプルでわかりやすく、生活者のニーズにしっかりと応える品質の高いアプリであること。
  2. コンバージョン フローが簡潔であること。例えば、実際にアプリで何かを買おうとしたタイミングで、入力情報が多ければ生活者は離脱してしまう。
  3. ディープ リンクなどのリテンション施策を活用し、生活者をできるかぎりアプリに誘導するなど、生活者を定着させる策が施されていること。

一方で、せっかく高品質のアプリを作っても、インストールされなければリレーションシップ強化にはつながらない。インストール促進の際にも、Micro-Moments が重要になる。実際 75% の生活者がアプリをダウンロードする前になんらかの検索や比較を行っている。生活者との接点である掲載面(検索結果画面、アプリ閲覧、ウェブ閲覧、動画視聴など)でのアプリプロモーションも、大切なアクションである。

そしてアプリの効果を見極めるには、アプリの CPI(1 インストールにかかるコスト)とともに、アプリによって実現する LTV(顧客生涯価値)も継続的にみていくことが重要である。


Micro-Moments を活かしたこれからのモバイル マーケティング


スマートフォンの普及により、マーケターが生活者の意図をよみとれる Micro-Moments が格段に増えており、それを的確にとらえられることが、そのブランドの成功の鍵を握るといっても過言ではない。モバイル マーケティングに取り組んでいる企業は多数存在するが、成功の糸口が掴めないという声もたびたび耳にする。今一度、「生活者の Micro-Moments を正しく見極め、最大限に活かせているか。」という観点で、マーケティング施策を見直してみてはどうだろうか。

(次回は、本記事で紹介した 3 つのステップの中でも特に「Micro-Moments を活かして認知を獲得し検討を促す」方法に焦点をあて、弊社ブランドソリューション エキスパートの中村から具体的な施策を紹介する予定です。)



連載:「Google と考える Micro-Moments」- 他の記事はこちら


第 2 回: Micro-Moments を活かして認知を獲得し検討を促す
第 3 回: Micro-Moments を活かしてコンバージョンを増やす
第 4 回: Micro-Moments を活かしてリレーションシップを強化する





*1 Criteo 調べ  http://japan.cnet.com/marketers/news/35058049/
*2 Think with Google, Why Online Video Is a Must-Have for Your Mobile Marketing Strategy, 2015 April
*3 Google 調べ
*4 Understanding Shopping Cart Abandonment(ショッピング カートの放棄に関する分析)Forrester Research 2010 年 5 月
*5 Google/Compete によるスポーツ用品に関する調査:(2011 年 9 月~2012 年 9 月)クリックストリーム BF02(アクセスしたブランドの数)
*6 Mail Online 2014, ComScore stats 2014